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2012年10月31日 (水)

月末特集1ケ月内来場者数ベスト1 映画『アウトレイジビヨンド』が語りかけていること

 今日から北野武監督作品(監督にとって十六作目)である『アウトレイジビヨンド』が上映されているので、監督に対する敬意も込めて最寄の上映館で初回で観た(前作アウトレイジ一作目もそうであった)。

 今回の私自身の楽しみとは初回で生き残った出演者達がどうなっていくかであった。加藤(三浦友和)、石原(加瀬亮)、片岡(小日向文世)、木村(中野英雄)、そして前回で死んだ筈であった大友(ビートたけし)が実は生きていたという設定となっている。そしてこの全員が今回も余すところなく活躍し、それに新たに花菱会という関西のヤクザ組織の会長布施(神山繁)、その若頭西野(西田敏行)、幹部中田(塩見三省)、それ以外にも加藤が下克上で手に入れた山王会の古参幹部に富田(中尾彬)、白山(名高達夫)、五味(光石研)、それに彼等さえも顎で使おうとする石原とぴたっとくっ付いている幹部舟木(田中哲司)が物語り全体に重要な役どころで、加藤によって乗っ取られた山王会の前会長である関内(今回は写真のみの登場。北村総一郎)のボディガードだったという設定となっている。 

 今回も封切間もないので一切のネタバラシをすまい。 

 かつて北野映画とは『ソナチネ』にしても『HANA-BI』にしても『BROTHER』にしてもかなり脚本をルーズに作っておいて、台詞無しのアドリブ演出や長回しも多かったが、前回に引き続いてより用意周到な台詞の遣り取り(演出上での変更などの一切利かない)とか編集も計画性の高い仕方を採っていて、その点では映画全体のメッセージとか主題もより鮮明となっていて、曖昧なところを極力排除している。尤もかつてキタノブルーとも呼ばれた映像の美の冴えは健在である。 

 又前回は一応ビートたけし演ずる大友が主役であったものの、どちらかと言えば大勢の出演者全員の役柄の魅力を全開させることも目的の一つであったことに比べれば、主役大友(ビートたけし)の行動と考えそれ自体が持つ比重がもっと前面に出ていて、要するに昔気質のヤクザの生き様に焦点が当てられる様になっている。 

 それでも尚他の出演者の演技の素晴らしさもより前作よりもクローズアップさせられており、周囲から突き上げられる追われる立場となった加藤と石原を演ずる三浦と加瀬も素晴らしいが、花菱会会長布施役の神山、その若頭西野の西田、幹部中田の塩見なども素晴らしくどすの利いた演技を見せている。本物のヤクザより恐ろしさを出している。西田は以前より北野映画を鑑賞してきていたが、自分は使って貰えないと決め付けていたところもあったが、今回監督へ一もニもなく手を上げ、やっと本作にて念願が叶ったと言う。又今回は本来主役級役者でもある筈の高橋克典が一切台詞のない花菱会のヒットマン役で出演しているが、彼も北野映画出演をかねてから切望していて、台詞のない役しかもう残っていないけれどとのたけし監督からのオファーにも是非と飛び付き、クールな殺し屋を巧く演じ切って新境地を開拓している。 

 パンフレットによると今でも映画祭に出品する際の結果待ちには慣れていないとのことであるが、最早二作で大きな賞を獲っているので、北野監督には敢えて大賞が必要であるとも私には思えない。もう監督によるフィルムノワールの完成度は極まっていると思えた。とりわけ大友が出所後にかねてよりお世話になってきているという設定で今回初めて登場した影の在日フィクサー張大成(チャン・テソン)(金田時男)が曰く有り気な雰囲気をよく出していて、映画全体の展開に重要な台詞を沢山語る。しかもその配下の李(白竜)は在日らしくパチンコ屋を普段はしており、このことが今回の映画の結末の一つに重要な役割を果たしている。それにしてもこの白竜という人のアンダーワールド役は凄みがある。怖い(白竜は北野映画出演は『その男凶暴につき』『みんな~やってるか!』『HANA-BI』に続き四作目である) 

 それに対してかつてお世話になり解散の憂き目にあった木村の属した村瀬組の組員の息子達で木村が雇って使っている青年二人に桐谷健太と新井浩文が起用されているが、彼等は大友のボディガードをする様に命じられるが、ホテルでカレーを食べている隙にエレベーターに乗った大友が銃で撃たれる場面があるが、このエレベーターのシーンは北野映画のファンなら誰しも『ソナチネ』をまず思い出すだろう。南方英二、大杉漣、渡辺哲などとビートたけしが迫力ある銃撃戦を繰り広げるシーンはエレベーターを使ったアクション銃撃シーンとして世界に衝撃を与えたが、これらも含めて北野監督はある部分ではフランシス・フォード・コッポラ監督の『ゴッドファーザー』シリーズとかテレンス・ヤング監督の『バラキ』とか『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』(セルジオ・レオーネ監督)とか『アンタッチャブル』(ブライアン・デ・パルマ監督)などからもインスパイアされてきたのだろうと思う。つまり深作監督とか黒澤監督からだけインスパイアされてきたのではない、と私は思う。エレベーターのシーンを北野監督はお気に入りの様で、本作と『ソナチネ』以外でも『Dolls』や『TAKESHIS’』などでも有効に活用している。 

 だからもし北野監督、たけし監督によって次回以降大きな賞を獲る作品が登場するとしたら、今回迄の様なフィルムノワールではなく、監督本人も切望している純愛映画などではないだろうか? 

 又北野武という人、そしてビートたけしという人は、今回は台詞なしだけで起用した高橋克典などの役者を次回は台詞を多く使った役で起用するとか、そういったことを考えている人ではないだろうか?そうである。映画の中で演ずる大友の持っている昔気質が彼の中にはある様に思われるのだ(私は前回の生き残り組の後始末をどう今回つけるか想像していたが、少なくとも殺し方に関しては想像したとおりであった。私も大分北野映画の美学の文法を掴んできた様である)。 

 私は北野映画を全作品鑑賞してきた。その初期三作とそれ以降の作品四作以外は殆ど初日に鑑賞した。私の好きな北野映画は先述の仕事以外では『その男凶暴につき』『みんな~やってるか!』『BROTHER』『監督・ばんざい!』『アキレスと亀』などである。 

 人間社会への透徹した眼差しを持つ北野映画では、悪それ自体も通り一遍ではなく人間存在の弱さとか集団とか組織の掟に縛られていく不条理から描かれる。その意味では真の意味での強者は北野映画では登場しない(当然のことながら正義もである。その意味では今回初登場である片岡の片腕として活躍する繁田<松重豊>の存在が映画全体で語りかける意味もかなり大きい)。そういった二律背反を描き切った北野監督による純愛映画とか、他のジャンルの今後の映画を今から楽しみでぞくぞくする想いである、という意味で私自身の北野ワールドの旅は未だ当分終わりそうにない。

 付記 本文では触れなかったが、音楽を担当した鈴木慶一の仕事が素晴らしい。抑制の効いたアンニュイでいてミニマルで情に流されない楽曲が巧く北野映画の持つ不条理感の通奏低音を際立たせている。(Nameless-value)10月5日記事(今日現在来場者数1066人)

 本作品公式サイト http://wwws.warnerbros.co.jp/outrage2/

 付記

 本記事は本ブログでは久し振りに1ケ月経たぬ二十日少しで千人の来場者数を獲得した。本ブログでは二年前のある記事以降最も多く来場者数を獲得した記事となった。

 それもしかし一重に北野武監督の威光である。北野映画も素晴らしいし、その映画で多く主演も務めるビートたけしという役者も素晴らしい。そしてビートたけし=北野武というお笑い芸人にしてヴァラエティや時事問題討論番組の司会者、報道取材特番の企画者、そして画家、詩人、脚本家、編集者などこの20世紀から21世紀に股をかけた大物の存在理由をそろそろ私なりに考えるべき時期に来ているとは考えていたのだが、その度にこの人は常に新たな方向へと私達を誘う。そして又この映画で私達に彼は何かを突き付けた。まさに偉大なる才能の持ち主にして偉大なる巨人である。

 ビートたけし=北野武は人生でかなり大きな波があったし、いい意味でも悪い意味でも時代を象徴し代表していた。しかし映画監督として着実にキャリアを積むに従って私達へ肩書きとか一人の人間のキャラクターとかそういった部分毎の持つ力を遥かに超え得る存在自体が持つメッセージ性を我々へと突きつけてきた。それこそがこの人の持つ存在理由である。つまりビートたけし=北野武はそんなに単純ではないのだ。一つの彼の持つ性格とかセンスとか才能とかはこの巨人の前ではやはり小さな部分でしかない。それらが複合化されたところに何か時代とそれを越えるメッセージがある。かつてその様なタイプの巨人はどの世界にも何人かは居た。アートの世界ではピカソがそうであったし、音楽の世界ではロック&ポップスではビートルズが、そしてお笑いの世界でも様々なタイプの大物が出ては消えた。しかしビートたけし=北野武は所謂お笑い芸人という枠には常に嵌らなかった。だから当然役者を始めても役者であるだけではなかった。要するに彼は常に何をしても、その枠から食み出てしまっていたのである。その意味では存在の仕方としてはある部分では三島由紀夫的(彼も又一文学者には収まりきらなかった)だし、ある部分では寺山修司的(彼は多才そのものであった)である。それでいて、崔洋一監督から要請されればきちんと役者も務めるし、テレビ局から頼まれれば一度は出演を差し止められていたNHKでも紅白歌合戦で志村けん等とコントもやった。そしてその技術論的な完璧さと相変わらずのキャラクターの持つ毒舌的センスで常に我々を飽かすことなく存在し続けた。彼が演じた犯罪者や刑事などどれを取っても時代を象徴する存在ばかりであったし、どの役を演じてもしかし同時にビートたけしで在り続けた。

だがそんなビートたけし=北野武も還暦を過ぎ、六十五歳となった。さてこれから人生の完成期へと突き進むこの人がどんなことを又しでかすか、常に私達は注目していくわけだが、この人を真に脅かす存在がどれくらいこれからこの日本という国に登場するか、ということも又恐らくこの人の脳裏にも過ぎっている考えではないだろうか?どんなに偉大な存在でも一人の人間の存在は時間的に永遠ではない。そしてきっと監督であり役者であるこの人は未だ手をつけていなかった部分へと既に動き始めているだろう。そしてそれが再び存在自体のメッセージである様に我々も望むし、本人もそれを自覚していることだろう。その時迄私は静かにビートたけし=北野武の動きをじっと待ち続けてみようと思う。それはここ三十年くらいこの人の動きを常に追ってきた一人の人間の決意である。(Nameless-value)

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コメント

村瀬組…ですね

投稿: | 2012年10月31日 (水) 11時37分

どうも長い間入力ミスを気づいていませんでした。ご指摘有難う御座います。

投稿: | 2012年10月31日 (水) 11時55分

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